第1回 肥満とSASの関係
Q&A 肥満体型でなければSASは心配ないですか?
SASになりやすい原因の1つが肥満であることは、紛れもない事実です。肥満体型、特に首が太くて短い体型の方は、上気道が狭くなっているため、無呼吸が出現しにくいと考えられています。
つまり、「SAS患者には肥満者が多いですが? 」と聞かれれば、答えは 「はい」となります。しかしながら、「SASは肥満者の病気です」と断言しがたいところがあります。
その理由は、SAS患者の平均BMIを検討すると、欧米からの報告の多くはBMI30kg/㎡以上であるのに対して、本邦からの報告の多くはBMI30kg/㎡以下です。
例えば、SASの診療を行う国内の主要10施設で、AHIが20以上のSAS患者の肥満度を調べたところ、平均BMIは28.2kg/㎡であったと報告されています。
BMI28.2kg/㎡は、日本肥満学会が提唱する肥満度の判定では、肥満1度に分類される約3割の方は、やせ型または標準体型にもかかわらず、SASであることがわかります。
※睡眠時無呼吸症候群
(SAS)
他の要因で説明できない昼間の眠気や倦怠感などの症状があり、睡眠検査で10秒以上の無呼吸、低呼吸が1時間あたり5回以上である状態です。
※BMI指数
(ボディ・マス・インデックス)
肥満度の判定方法の一つ。
体重(kg)/身長(m)2で求められます。
※肥満基準
(日本肥満学会基準)
BMIが下記の通りです。
・18.5未満 :低体重
・18.5以上25未満:正常
・25以上30未満 :肥満度1
・30以上35未満 :肥満度2
・35以上40未満 :肥満度3
・40以上 :肥満度4
また、世界ではBMI25 以上を過体重(overweight)、30以上を肥満(obesity)と言われています。
Q&A なぜ日本人は肥満の程度に関わらずSASになりやすいのですか?
日本人は欧米人に比べて、顔面頭蓋の構造が小さいため、必然的に上気道の大きさも狭いです。そのため、軽度の体重増加でも、上気道が閉塞し、SASになりやすいのです。そのため、小顎症もSASの原因の1つです。つまり、太っている人だけの病気ではないのです。そのため、見た目判断ではなく、第1の指標は「いびきの有無」だと考えられています。
まとめ:SASの原因
肥満 扁桃腺肥大 アレルギー性鼻炎 小顎症 巨舌症
第2回 合併症とSASの関係
Q&A 症状のないSASは、無害ですか?
SASは睡眠中、上気道の狭窄が原因で、いびきが生じ、無呼吸が出現する疾患です。そのため、睡眠の断裂が生じ、昼間に眠気が生じます。主症状の夜のいびき・無呼吸と昼間の眠気が、生体に悪い影響を与えています。
いびき・無呼吸はそれぞれ単独で脳波上の覚醒反応と交感神経緊張をおこさせます。
この脳波上の覚醒反応と交感神経緊張が、さまざまな症状を引き起こすと考えられています。
睡眠断裂で「昼間の眠気」を誘い、「作業能率・学業成績の低下」は代表的な症状です。他に、「何となくだるい」「若い頃より疲れやすくなった」など、中高年に多い悩みも症状の1つと考えられます。
ただ、SASを放置することで怖いのは、眠気や集中力の低下といった症状だけではありません。覚醒反応と交感神経緊張は、血圧を上昇させるカテコールアミンをはじめとする様々な増悪因子の代謝に関与して、生活習慣病の原因・増悪を生じさせると考えれています。事実、生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患の頻度はSAS患者では、明らかに高いとの報告があります。
そのため、日中の眠気を感じなくても、睡眠中のいびきや無呼吸を指摘されれば、検査をされることをオススメします。放置は、将来的なQOLの低下を招く可能性が高くなります。つまり、症状がないSASも放置は危険と考えられます。
Q&A どのような合併症がありますか?
SASを放置することが怖い要因の1つは、「寝ている間に病気が作られるのがSAS」だと考えられているからです。肥満との相互作用も関係し、高血圧、高脂血症、糖尿病、虚血性心疾患、脳梗塞障害などは、正常な人と比較して、SASの患者さんのほうが、高頻度に合併していることがわかっています。
第3回 高血圧とSASの関係
Q&A なぜ、高血圧がSASと関連しているのですか?
SASの病態
SASは、睡眠中に無呼吸が繰り返えされ、低酸素血症と中途覚醒を伴う病態です(右図参照)。そのため、夜間であっても日中の通常覚醒時であっても末梢血管に対する交感神経活性が活発になります。脈拍、心拍出量、末梢血管抵抗は上昇し、高血圧を引き起こすと考えれています。
実際に、SASが高血圧の危険因子であることを調査したものもあります。
CPAP治療における高血圧の効果
その結果では、SASを放置しておくと4年後に高血圧なる確率は、SASでない方と比べてAHI(無呼吸低呼吸指数)が15以上で2.89倍高いという結果でした。つまり、SASは高血圧の発症と密接にかかわっているといえます。
一方、SASの方で、もうすでに高血圧の方でも、SASの治療をすると血圧の低下につながるという結果も発表されております(左図参照)。
もうすでに高血圧の方はもちろんですが、夜間高血圧が気になる方や降圧剤を服用しているが血圧が下がらない方は、ぜひSAS検査の受診をお薦めします。
Q&A 高血圧の他にSASを放置していると怖い合併症はありますか?
上記で述べたように、SASは交感神経活性を活性化させます。そのため、心臓や末梢血管に大きく負荷を与えるため、高血圧の放置と同様に、SASを放置していると不整脈や心不全、虚血性心疾患などの心血管疾患との合併の頻度は高いとの報告は沢山あります。右図は、SASを放置したことにより、将来的な心血管疾患の発生頻度を12年間に渡り調査したものです。この結果によると、SASの方は正常の方と比較すると将来的に約4倍心血管疾患による死亡率が高いことがわかります。
第4回 糖尿病とSASの関係
Q&A なぜ、糖尿病がSASと関連しているのですか?
SASの原因の多くは肥満であることから、生活習慣病の1つである糖尿病の合併が多いことは容易に想像できると思います。しかし、近年では肥満とは関係なく、SASの方は糖尿病になりやすいことがわかってきています。
その原因はなんでしょうか。循環器疾患同様、SASにより交感神経活性の活性化が大きな影響を与えています。つまり、交感神経の活性化により、糖代謝に関わるレプチンやインスリンなどの働きが抵抗され、糖尿病につながると考えられています。レプチンは食事の際に分泌されて、脳の視床下部の満腹中枢を刺激して満腹感をあたえます。早食いやレプチン抵抗性の人は、満腹中枢からの刺激が遅いため、食べ過ぎや肥満につながると考えられます。
糖代謝における正常群とSAS群の比較
インスリンは、肝臓でブドウ糖をグリコーゲンに変える役割をもつほか、血液では全身の筋肉や脂肪組織に働きかけて、ブドウ糖の利用と蓄積を促す役割をしています。このような糖代謝に重要な物質の働きが減少し、高血糖になり、糖尿病につながります。
実際に、SASの人と正常の人のインスリン濃度や空腹時血糖値を比較すると、SASの人のほうが明らかに高いことがわかります(右上図参照)。つまり、SASの人はインスリンの働きが低下しているため、空腹時血糖が高いと考えられます。危険率は、約3倍程度とされています。
CPAP治療におけるインスリン効果
また、糖尿病もSASの治療をすることで、治療開始後、2日でインスリン抵抗性のすみやかな改善が認められ、改善効果は3ヶ月後も持続されたとの報告があります(右下図参照)。これは治療により、交感神経に対する抑制作用によるものと考えられています。